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概要

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55海洋生物資源学科3年西村大樹ノルウェープログラムアルタに到着して3日目、今日は朝からFinnmarkslopet のFL-500, FL-Junior の出発を見送り、夕方にアイスホテルに向かった。アイスホテルとはその名の通り氷で作られたホテルで、氷でできた部屋に宿泊することも可能である。他にもレストランやバー、結婚式場などを併設している施設である。受付で入館料を支払い、アイスホテルの扉を開けると一面氷でできたシャンデリア、氷でできた像、氷でできた支柱、氷でできた教会と、氷づくしというか氷しかない光景が広がっていた。以前なにかの番組でこの施設のことは見たと思うが、それにしても非日常的な場所と少しの物音を出すのもためらわれるような厳かな雰囲気でとても印象的であった。ホテルの部屋もディズニー作品の美女と野獣、白雪姫、アラジンと魔法のランプなどをモチーフにした部屋があり、それぞれファンタジーな世界観が出来上がっていていつか宿泊してみたいとも思った。以上が本日のハイライトであるが、続いて今日経験したことから考えたことを述べていく。アイスホテルはアルタ中心地からアルタ川をさかのぼってしばらく行ったところにあるが、まわりにはほとんど何もない。アルタ中心地でさえある程度大きな建造物もホテルと教会くらいしかない小さな街で、路面はどこも雪で覆われていてまさにFrozen Town といった見てくれをしているが、アイスホテルにしてもどうしてこんな不便なところに人が住んでいるのかと不思議に思うこともあった。東京などというまさに都市と呼ばれるような場所で日ごろ暮らしている私たちからすれば、現地人のサーミ族でもない普通のノルウェー人が、しかも日本の片田舎のように年寄りばかりがいるのではなくむしろ若い人たちが目につくというのはどういうことなのかよくわからなかったが、ある程度ここで生活してみてその答えが少し得られたような気がする。アルタは北緯約70°という自然環境がその特徴であるが、この極限的な地だからこそできることも少なくない。今日行ったアイスホテルや犬ぞり、オーロラもこの地だからこそ、この自然環境だからこそ実現されるシーンである。だからこそこうしたものを好む人々は仮に都市に住むことが可能であったとしてもこの極限的な環境に好んで暮らしているのではないだろうか。東京や首都圏に日ごろ暮らしている私からすれば田舎のように思える場所であっても現地の人からしてみれば生きるのに何不自由ない、しかも自分の好きな環境に囲まれたホームタウンというわけである。この「好きな」というのは一つのキーワードだと思う。というのも首都圏に暮らしている人達を見ると東京が好きで住んでいるという人がいる一方で職場へのアクセスがいいからとか、都合上仕方なく住んでいるという人も多くいる気がするからである。ただ、そこを選んでそこに住んでいるのか、仕方なくそこに住まわされているのかでは大きな違いがある。この意味ではアルタに住んでいる人たちは自らこの場所を選んで進んで住んでいるように見え、一種の自己実現をしているように考えられるので羨ましくも思えてくる。これはあくまでも氷山の一角に過ぎない気がする。何を良しとして何を悪いとするかは個人で異なって当然であるはずなのに、現実世界においてはただ1 つの基準をみなに用いていないだろうか。都市に住んでいる人は偉い。偏差値が高いほうが偉い。本当にそうだろうか。本来自由に選べる選択肢のはずなのに、社会で生きていくためにその自由が奪われている例は枚挙にいとまがない。一度立ち止まって考え直したほうが良いのではないかと私は思った。(2019 年3 月9 日)日報抜粋版